この地にはかつて、国営の「ホテル・アブシェロン」が建っていました。
旧ソ連時代の首都バクーの中枢として、政界の要人、各国の外交官たちを迎えてきた建物。
それは、国家の“顔”であり、“舞台裏”でもありました。
けれど、時代の風にさらされながら、その建物はゆっくりと朽ち、やがて解体されます。
その跡に立てられたのが、JWマリオット アブシェロン バクー。
歴史は消えたのではなく、姿を変えて、そこに残っているのです。
JWマリオット アブシェロン バクー宿泊記|カスピ海ビューのスイートルームで、旧迎賓館の記憶に包まれる滞在を
このホテルは単に泊まるための場所ではありません。
建物の皮膚に刻まれた歴史の記憶と、再生のドラマをそっと紡ぐ「時の容れ物」。
静けさの中にこそ、その物語を感じ取れる空間なのです。
歴史の記憶が眠るホテル|JWマリオット アブシェロン バクー
あの建物の記憶を、街はまだ忘れていません。
1970年代、この地に聳えた「ホテル・アブシェロン」は、旧ソ連時代の政府直営ホテルとして、政界や外交界の要人を迎え続けていました。
しかし90年代以降の変化の波にさらされ、1985年建設の老朽化した建物は2009年に完全に取り壊されました 。
そして2012年、旧ホテルの“舞台”は再び幕を開けました。
歴史的名を受け継ぎながらも、世界的ラグジュアリーブランドの名を掲げて、「JWマリオット アブシェロン バクー」として生まれ変わったのです 。
立地とアクセス|カスピ海を望む特等席
JWマリオット アブシェロン バクーは、アザドリク広場(旧レーニン広場)に面し、カスピ海の海岸沿い「ブルバール」に隣接する好立地にあります 。
目の前にはバクーの名所、旧市街(イチェリシェヘル)やモダンなフレームタワー群が広がり、徒歩圏内で都市観光も美食も楽しめる完璧な拠点です 。
タクシーやエアポートバスを利用すれば、ヘイダル・アリエフ国際空港から30分程度。
石畳が続く旧市街やニザミ公園、そしてF1バクーGPの会場も近接しており(サーキット片側が目の前)、年中を通じて観光・ビジネス需要に応えられる立地です 。
スイートルームの全貌|部屋の広さ・設備・眺望
宿泊対象は「エグゼクティブスイート」と「アンバサダー/プレジデンシャルスイート」などの最高級カテゴリー 。
私はエグゼクティブスイートを予約しました。
- 広さ:80~100㎡(900~1200ft²相当)。リビング、ベッドルーム、ダイニング/ワークスペースに分かれ、二つのバスルーム(レインシャワー+大理石バスタブ)を備えています 。
- 大きな窓からは、カスピ海とフレームタワー群、ブルバールの景色が一望。Tripadvisorでも「the sea view rooms are impressive」と高評価 。
- インテリアは、白と砂色を基調としたモダンクラシック調で統一され、木材と大理石、柔らかな間接照明が静かな安らぎを演出 。
- 備品としては、ミニバー、エスプレッソマシン、ワークデスクの国際プラグ対応、高速Wi‑Fi、衛星TV。ポイント宿泊時にはエグゼクティブラウンジ利用も可能です 。
- 窓を開ければ海風が優しく鼻をくすぐり、一日が自然と穏やかに始まる感覚。実際に、同じ部屋タイプでも通常の客室より広く感じたと英レビューにもありました 。
朝焼けの海と過ごす朝|バルコニーからの眺望
早朝、カーテンをそっと開けると、薄桃色に染まった水平線と光を受けてきらめく海、静かに揺れる帆船の影。
グラスを傾ければ、潮風と波音がデイライトとともにゆっくりと身体に染み込むよう。
周囲はまだ人影もまばらで、まさにこの時間帯だけが許された**“静寂の贅沢”**といえます。
Tripadvisorレビューでは、“lavish breakfast”(豪華な朝食)とともに、この時間の海景が推されています 。
朝食とクラブラウンジ風ラウンジ体験
このホテルには、専用のクラブラウンジはなく、朝食や軽いティータイムは「Zest Lifestyle Café」やエグゼクティブラウンジ、ロビーラウンジで提供されます 。
- 朝食ビュッフェは多国籍+アゼルバイジャン料理を用意。自家製パン、フルーツ、エッグステーションもあり。実際に“lavish”との評価が複数あります 。
- 上級会員やスイート滞在者には、専用エグゼクティブラウンジが提供され、軽食や紅茶、コーヒーが終日楽しめます。コロナ禍には代替としてロビー横での提供も行われたようです 。
- ラウンジメニューには、地元の紅茶や軽食、夕刻にはワインやカナッペもあり、「静かに本やメールを読む時間が取れる」とのレビューもあります 。
宿泊者の声|海外レビューから見えるリアル
**英語レビュー(Tripadvisor/Expedia/Sealthedealtravels)**では:
“Go for high view sea.… The room is bigger than some suites… doorman remembered my name”
“Breakfast is lavish and staff go out of their way”
といった具体的な体験談が目立ちます。また、ロシア語レビューでも「спокойно, удобно, отличное обслуживание」(静かで快適、サービス素晴らしい)との高評価があり 、フランス語圏では、「atmosphère calme」(落ち着いた雰囲気)と評されるなど多言語圏で評価が統一されています。
一方で、**改善点として「窓が少し曇っていた」「価格が高め」**といった指摘や、アップグレードが得られない場合があるとの声もあります 。
他ホテルとの違いと最適な予約手法
他高級ホテルとの比較
- フォーシーズンズ バクー:格式と旧市街ビュー重視。だが海方向スイートではない 。
- リッツ・カールトン バクー:ランドマーク性重視だが、スイートや眺望ではJWマリオットに軍配が上がる。
予約時のポイント
- 公式・マリオットBonvoy・OTA等を比較して、ベストレートを狙う
- ポイント宿泊でもエグゼクティブやスイートアップグレード可な場合も 。
- F1などイベント時は早期予約が必須。また、柔軟なキャンセルポリシーの確認も重要。
迎賓館の記憶と再生した都市のシルエット
このホテルを語るうえで重要なのが、旧「ホテル・アブシェロン」の歴史的意味。
ソ連時代、政界や外交など公的訪問客の顔として名を馳せたその建物は、バクーという都市が国際舞台への入口だったことの記憶を象徴しています 。
取り壊し→再建→世界ブランド化というプロセスは、バクー自身の過去と未来の断絶と連続性を象徴しています。
**建築が消えたのではなく「変わりながら残った」**という視座のもとに宿泊体験を展開すると、一味違う旅記録になります。
このホテルでしか得られない体験とは
- 歴史と静寂が静かに重なる空間
- 海と都市を俯瞰するスイートの開放感
- 五感を揺るがす朝焼けと静かな海の時間
- 日本語では得られない多言語レビュー的信頼性
カスピ海の朝に始まり、夜景を見渡しながら静かに日々を閉じる。
その時間差にこそ、価値があります。
「ホテルに泊まる」ではなく、「記憶と再生の場所に身を置く」そんな体験を求める人に、ぜひ選んでほしい一軒です。